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書道家・3人の父親 武田双雲さんが贈る、13歳へのメッセージ「今感じている劣等感や短所は、ぜんぶ勘違いだから捨てていいよ」

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一人ひとりが自分にあった進路を選べる社会へ。

偏差値というたった一つのものさしだけを基準にするのではなく、まわりの大人の声にただ流されるのでもなく、一人ひとりが“自分の人生の主人公”として、意志を持って将来を選び、切り拓いていってほしい。サイル学院高等部は、そう考えています。

とはいえ、社会に飛び立つ前の10代にとって、進路選びは難題です。「将来、どんな道があるのか、想像できない」「何を基準に進路選びをすればいいのか、わからない」というのが本音だと思います。進路選びは、正解のない問い。迷いがあって、当然です。

一方で、いま社会の第一線で活躍しているビジネスパーソンや、自らの能力を発揮し、いきいきと生きている大人たちにも、みなさんと同じように進路に迷った10代の日々があったはず。彼らは、どんな学生時代を過ごし、どのように進路を選択して、今に至っているのでしょうか。彼らが持つ十人十色のヒストリーは、進学や就職など、今岐路に立っているみなさんの背中をそっと押してくれるはず。

そう考えた「13歳からの進路相談(すばる舎)」著者・学院長の松下は、各界で活躍する方々をお招きし、13歳の進路選びをテーマに語り合うことにしました。題して「いまを生きる君たちへ『もし私が、13歳なら』」。一人目のゲストは、書道家であり、3人の父親でもある武田双雲さんです。

武田双雲(たけだ・そううん)さん

【書道家・3人の父親 武田双雲(たけだ・そううん)さん】

1975年、熊本県生まれ。東京理科大学理工学部卒業後、NTTに入社。約3年の勤務を経て、書道家として独立。映画「春の雪」「北の零年」、NHK大河ドラマ「天地人」をはじめ、世界遺産「平泉」、スーパーコンピュータ「京」など、数多くの題字、ロゴを手がける。2015年及び2019年、アメリカのカリフォルニア州にて個展開催。オリジナルの書道講義が話題を呼び、日テレ「世界一受けたい授業」などさまざまなメディアに出演し、著書は60冊を超える。

授業中、黒板よりも揺れるカーテンをずっと見ている子どもだった

 松下

今回は「13歳の進路選び」をテーマにお話を伺っていきます。幼い頃、武田双雲さんは、どんなお子さんだったんですか。

武田双雲さん 武田さん

熊本県熊本市で生まれ、三人兄弟の長子として育ちました。幼少期はいつもニコニコしていて、活発な子だったらしいです。

ただ、小学5年生くらいから暗雲がたちこめて。高学年になると、みんな勉強し始めるじゃないですか。でも僕は、何をすればいいのかがわからなかった。授業中もクラスメイトと同じように先生の話を聞けないんです。

たとえば教室のカーテンが揺れているとするでしょう? すると「なぜ、こんな動きになるんだろう?」とつい考えてしまう。その動きにシンクロして自分の体を揺らしてみたり(笑)。よく先生から怒られて、友だちからも無視されるようになって。毎日、つまらなかったですよね。中学や高校に進学したあとも、まったく楽しくなかった。

松下 毎日、学校には行っていたんですか?

武田 不登校ではありませんでした。反抗心があったわけではないので。何も考えていなかったんですよ。親が用意した服を着て、出された朝ごはんを食べて、素直に学校に行っていました。

体が大きいので、中学でも高校でも、運動部からスカウトされるんです。誘われるまま入るでしょう? それで試合中に「ああ、雲がきれいだなぁ」とぼーっと空を見上げちゃうから、すぐにクビになる(笑)。ものすごく孤独でしたよね。世界にポツンと自分一人でいるような感覚でした。

松下 それでも高校卒業後は「東京理科大学」に進学し、新卒で「NTT」に入社されています。この経歴だけを見ると、順風満帆だと感じる人も、きっと多いですよね。

武田 進学も就職も、とくに自分が望んだことではありませんでした。結果的にそうなったというか。すべて偶然だったんです。

「受験って何?」って思っていたし、大学がどんな場所なのかもわかっていませんでした。受験する大学も、鉛筆を転がして決めたくらい(笑)。東京理科大学なんて絶対受からない成績だったけど、家庭教師が張ってくれたヤマがたまたま大当たりして、行けることになって。就職だって、大学4年のときに友だちが「ねぇ、大智(武田さんの本名)って就活してる?」と聞いてくれなければ、就職活動の存在さえ知らなかったんですから!

だから僕の話は、進路を考える中高生にとって、まったく参考にならないんです。大人になってから「僕はADHD(注意欠如・多動症)だったんだな」と気づいたんですが、子どものころからずっと、今より先のこと、明日のことも考えられない気質だったので。

NTTを辞め、書道家に転身したワケ

 松下

NTTを辞めて、書道家になろうと思ったのは、何かきっかけがあったんですか。

武田双雲さん 武田さん

当時、仕事中によく小筆でメモを書いていたんですね。すると、みんなが面白がって、次第に「自分の名前を書いて」と頼まれるようになったんです。
ある日、いつもと同じように、女性社員の名前を書いたら、彼女がぽろぽろと涙をこぼすんですよ。「これまで自分の名前を好きになれなかったけれど、武田さんが書いてくれた字を見て、こんなに素晴らしい名前だったんだって初めて気づいた」と言ってくれて。僕は、彼女の涙に衝撃を受けました。自分が楽しんで書いていたものが、こんなにも喜んでもらえるなんて。それがうれしくて、会社を辞めたんです。

松下 実際に辞めてみて、どうでしたか。

武田 暇ですよね(笑)。書道家になるといっても何の計画もなかったのでお客さんは来ないし、オファーもないし。

ただ、思い返してみれば「何にもやることがない」って、初めての経験でした。これまでは学校や会社という決められたシステムに乗っかって生きてきたわけですから。

誰も何も決めてくれない。すべて自分で考えて動かなくちゃいけない。そういう状況になると、人って考え始めるんです。さて、何をしようかって。僕の場合は書道家なので、まずは人生の一文字を決めてみようと思いました。それで、「楽」という字を書いたんです。

松下 「楽」を、人生の一文字に決めたと。

武田 そうです。この一文字を心に決めたことが僕の転機になりました。「楽」とは、心の状態のこと。つまり「楽(らく)=リラックス」と「楽しい」だけを守って生きようと決めたんです。

僕の頭には4つのマトリックスが浮かんでいて。まずは「自分がリラックスする」「自分が楽しむ」、そして「人を楽しませる」「世界をリラックスさせる」。この4つのマトリックスを極めていこうと決めました。今も、それは変わっていません。

松下 人生の軸となった「楽」には、自分自身が楽しむだけではなく、「他人」や「世界」も含まれているんですね?

武田 もちろん含まれています。だって、まわりが楽しんでいないと、自分もつまらないでしょう?自分一人では、ずっとは楽しめない。自分本位では決して生きていけないように、この世界はできているんです。自分と社会は切り離せないものなんですね。

松下 なるほど。ただ、ベクトルを自分だけではなく、社会に向けつづけることはエネルギーを必要とすることだとも感じます。武田さんのエネルギーは、どこから生まれているものなんでしょう。

武田 簡単に言えば「好奇心」と「感動」だと思います。おいしいラーメンを食べたら、「このラーメンめっちゃうまくね?」って、みんなに伝えたいじゃないですか。わくわくすること、心が動いたことは、まわりに伝えたくなるもの。

だから、まずは自分自身が楽しむ、感動する、喜ぶ。その喜びが他の人に伝わって、また新しい楽しさや喜びが生まれていく。それでいいと思うんです。

僕は、宇宙や科学が好きだし、人の心理についていつも考えをめぐらせているから、書道教室での生徒さんたちとの触れ合いなどを通じて、いろんな法則を発見する。その法則への感動がまさに原動力になって、すでに60冊くらい本を出版しています(笑)。

選択肢は無限にある。工夫次第で何だってできる

 松下

武田さんご自身が13歳だったとき、もしも誰かに「人生のテーマとなる一字を決めよう」と言われたら、決められましたか。

武田双雲さん 武田さん

13歳ですよね? 視野が極端に狭い時期だからなぁ。とくに私の10代は、目の前で起きていることにただ反応するだけでしたから。だから「人生」とか、「社会」とか言われても、わからなかったと思います。だって、まだ何も経験してませんから。「視野を広げよう」と言われても、経験していないから、想像できない。

松下 もしも今の知識や経験を持ったまま13歳に戻れたとしたら、どう行動しますか。

武田 まず、学校に行かないでしょうね。部活にも入らないと思う。それよりも、もっと本を読みたいです。

松下 学校には行かないけれど、勉強はしたいんですね?

武田 いわゆる受験勉強じゃなく、心のおもむくままに、興味のある分野を、片っ端から学んでいくでしょうね。時間はありあまっていますから、もっともっと好奇心が広がっていくような勉強の仕方をすると思います。幸福度が高いと言われているフィンランドの教育とかも受けてみたいですし、きっと海外に行くでしょうね。

私には3人の子どもがいます。長男は今高校2年生。実は、“積極的不登校”といってほとんど学校に行っていないんです。アメリカに留学したり、帰国後も企業のインターンで働いたり。僕の時代では考えられないような動き方をしています。これからの進路だって、選択肢は無限にある。今はインターネットで世界中の情報を集められる時代ですから、工夫次第で何だってできるはずです。

今この瞬間の好奇心や感動を大事にしてほしい

 松下

最後に、今を生きる、現代の13歳に伝えたいメッセージはありますか。

武田双雲さん 武田さん

成績が良いとか悪いとか、モテるとかモテないとか。将来の可能性に比べたら、13歳の時点で感じている人との違いは、どうでもいい微差です。

気にする必要はありません。たとえ今、成績が良くなくても、顔に自信がなくても、お金を持っていなくても、存在感が薄くても、そんなものは人生にとってたいしたことじゃない。「今ある劣等感も欠点も、優越感でさえぜんぶ勘違いだから捨てていいよ」「今の自分を好きになってください」と伝えたいです。

そして、この瞬間にわきあがってくる好奇心や、心がわくわくすることを大事にしてほしい。僕は、今が楽しくて仕方がないから「こうなりたい」「こうしたい」という夢や目標がないんです。夢や目標を持って先ばかり見ていると、“今”がそこへと向かう、ただの通過点になってしまう。今が次の今、未来をつくります。“今この瞬間”をちゃんと感じて、楽しみましょう。

(デザイン:山本 香織、文:猪俣 奈央子)

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この記事を書いた人

サイル学院中等部・高等部 学院長
松下 雅征/Matsushita Masayuki
サイル学院中等部・高等部 学院長

1993年生まれ。1児の父。学生時代は早稲田実業学校高等部を首席卒業。米国留学後、早稲田大学政治経済学部を卒業。やりたいことではなく偏差値で進路を選び後悔した経験から、大学在学中に受験相談サービスを立ち上げ。中高生からの相談数は10万件以上。大学卒業後は教育系上場企業とコンサルティング会社の才流(サイル)で勤務。
2022年、同社の子会社として株式会社サイルビジネス学院を設立し、代表取締役に就任。一人ひとりが自分にあった進路を選べる社会を目指して「 サイル学院高等部(通信制)」を創立。2023年、同校の中等部を創立。著書「 13歳からの進路相談」(すばる舎)。進路選択をテーマにした講演・イベントの登壇実績多数。